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23 November

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28 September

彼から、彼へ

 はい、ルルーシュ追悼小説です。

 でもルルーシュは出てきません。オリキャラ(?)注意です。




 それでは、追記からどうぞ。














『ゼロです、ゼロが現れました!!』

「痴れ者が!!」



 深く突き刺さる剣。歓声を上げる民衆達・・・。
 愛しい魔王が死んだあの日。あれから、5年が過ぎた。

 感傷に浸る心など、とうに捨てたと思ったのに。私は未だに、各地をさまよい歩いていた。
 食事も取らず、眠りにもつけず。どんなに体が弱ろうとも、どうせアイツの元には行けないのだから関係がない。そう思いながら、足の赴くままに歩き続けた。
 ・・・こうしていれば、いつかは死ねるのではないか。そんな希望は、大昔に否定されている。だが、それでも。私は何をするでもなく、ただただ歩き続けるのだった。そう、彼と会うまでは。


 何の気なしに立ち寄ろうと思った村。その入口で、彼は蹲っていた。いや、倒れていた、といった方が正しいだろう。その体は痩せ細り、泥だらけ。さらに外傷だらけで、足はただれて指がくっついてしまっていた。とてもではないが、歩ける状態ではない。しかしその少年の周囲には、蟻一匹いなかった。
 ――孤児か?今時珍しい――そう思いながら、鼓動を確認しようと彼をひっくり返した瞬間、時が止まった。

 そこにあったのは、5年前、確かになくしたはずの彼と違わない・・・いや、幼い日の彼のかんばせだった。


 ゼロ・レクイエム――彼、いや彼らの最大にして最後の計画。それによる弊害は、彼もいろいろ考えていたらしい。この世で最も尊い座につきながら、彼は寝る間も惜しんで次々と対策を作り上げていた。
 しかし、それでもどうしようもないことがある。その一つが、彼を連想させるものが憎悪の対象になることである。人は、ずっと同じもの――それも過去のものだ――を憎み続けられるものではない。近いものが近くにあれば、必ず憎しみはシフトされる。だからこそ、より多くの人の恨みを、より強く――そう言いながら不安そうに瞳を泳がせていた彼でさえ、きっと想像できなかっただろう。その対象は、白い服、黒い髪、紫の瞳など、多岐に渡っていることなど。ほんの少しでも彼と似た思想、考え、容姿をしている。ただそれだけで、世界からはじき出されてしまう、この狂った世界など。

 ましてやこの少年はあまりに似すぎていた。迫害を受けたとしても、なんらおかしなことではない。


 気がつけば私は、その幼き日の魔王を抱えたまま、昔使っていた隠れ家の一つを見上げていた。
 風呂に入れ、水を飲ませ、傷口に薬を塗り・・・数年ぶりに甲斐甲斐しく手当てをしているうちに、半分予想していた通りの紫電が見え始めた。だが・・・

 最初私を見た瞬間、彼は震えて後ずさりした。
 もうぶたないで。ごめんなさい。いい子にするから。何もしないから。だから・・・そう言って、残っている右目で虚空を見つめている彼を抱き締めると、ギュッと縮こまる。
 だが、私が何もしないと分かると、止まっていた体内時計も動き出したようだ。小気味よくなるおなかの音に、私は念のため置いておいた保存食を渡す。片目を白黒させながらも、よく知る男なら決してしないような食べ方で全て平らげていく少年を見てやっと、私は食料を買いに行くことを決めたのだった。


 少年の名は、アランと言った。姓は知らない。そんなものをたずねる前に、彼は家から追い出されたようだ。
 暴行は想像以上に酷いものだったらしい。彼は、左目だけでなく光と歩く力を失っていた。
 今もこの国の頂点に立っている少女と違い酷すぎる火傷によって膨らんだ足は、靴を履くことすらままならない。しかしもう片方の足は指さえないものの踏ん張りはきいたので、車椅子だけでなく松葉杖も用意してやった。手製で作ってやった専用の靴も靴下も、大きさがあべこべなのでいくら目が見えなくても左右を間違えようがない。そのことがちょっと複雑そうに視線を泳がせていたものの、最後には花が開くかのような笑顔を向けてくれた。

 暫く経って、私達は中華へ移り住んだ。昔、マオと暮らしていた家ならば人は来ない。それに、たしかほんの少しでも遊び道具があったはず。そう思ったからだ。
 しかし実際に行ってみると、家の中はがらんどうとしていた。大方、マオが私を感じたくて持っていったのだろう。泥棒が入ったとしても、金目のものは何一つなかったからだ。

 仕方がなく、私達はオーストリアのマオが建てたという家へ。そこに居づらくなったらロシアへと、各地を点々とした。
 そのうちに少年は背が伸び、肩幅が広くなり、どんどんあの男に容姿が近くなっていく。火傷の痕も暴行の痕も、徐々に薄れて今ではパッと見だけでは普通と変わりない。しかし、相変わらず足は動かず、光が届くこともなかった。


 彼と共に居て分かったことがある。私は、確かにあの男を愛していたのだと。そして、彼とまた違った愛情を、この少年へ向けているのだ、と。そう、気づかされたのだ。

 彼が死んでから、私の世界はアランだけになった。ピザを食べることもやめてしまった。だって、私がピザを食べ過ぎたって、だらしなく部屋を散らかしたって、怒りながらも世話を焼いてくれる人はもういない。いるのは呆れたように眉尻を下げ、車椅子から落ちかけながらも拾った箱を手渡してくれる、愛しい我が子だけ。
 いや、そう言えるだけ贅沢なのは分かっている。死ぬまで自己を捨てなければならない男もいれば、公のために身を粉にすることでしか存在を許されない、少女だった女もいる。私とて、彼と共にいれるときはほんのわずかでしかない。いくら彼が私を認めてくれようと、私は永遠を生きる魔女なのだから。唯一共にいてくれると誓ってくれた魔王は、約束を違えて先に逝ってしまった。
 だからつい、アランの誕生日が来るたびに思ってしまうのだ。ああ、彼が死んでから、また一年が経ってしまった、と。



 ついに、アランも彼と同い年になった。そんな大切な日だというのに、生憎蝋燭が足りない。アランは毎年、年を重ねられたことを実感できるから、とキチンと蝋燭を年齢分立てたがる。それに、蝋燭は緊急の折に役立つ。普段はあってもなくてもいいとはいえ、ないとないで不便なので、取り敢えず他の物と一緒に買いに行こうと、私は一人町へ下っていった。
 そうして夕日も姿を隠した頃、木の根を慎重に避けながらようやく我が家へとたどり着くと、わずかに人の話し声が聞こえた。耳を澄まして聞いてみると、どうやらもう一人の住人と、どこかで聞いたことのある――というより、聞き覚えのありすぎる男の声。
 まさかな、とは思いながらも扉を開くと、そこには予感していた通り、あちらこちらに跳ねる栗色の髪があった。

「C.C.!」
 住人と訪問者は同時にこちらを見やると、お互いに目を瞬かせた。
 おいおい、ゼロがそんな感情を出していいのか。
 そう思いながらも、昔と変わらない――片方は大分老けているが――様子に目じりが下がるのが分かる。しかし男がこちらを再び見やるのに合わせ、揶揄するように唇の端を上げてやった。
 私から愛しい魔王を奪っていった奴に、本心なんて見せてやるものか。
 そんな私の意趣返しなど、おかえり、知り合い?とたずねる我が子の前ではあっけなく消えてしまったけれど。

「久しぶりだな、ゼロ。」
「そうだね、18年ぶりだ。」

 そう懐かしげに目を細める私達に、アランはじっと私を見てきた。そんな彼にふっと微笑みかけると、先ほどとは違う意味で細められた視線が私を射抜く。
「・・・C.C.、彼は誰だ。何者なんだ。」
 どうして、ルルーシュと瓜二つなんだ。こんな、顔も、体格も、声も、表情も、何もかも・・・そこまで言って、彼は唇を震わせるとそれを引き結んでしまった。しかし問いただすような眼光はそのままで。成長しないな、と苦笑しながらも、しょうがないので事実だけを伝えてやる。
「さあな。私が知るわけが無いだろう?」
 私は、ただの魔女なのだから。そう口の動きだけで伝えると、不服そうに眉をひそめて。しかしこればかりはどうしようもない。
 もしかしたら、彼の生まれ変わりかもしれない。そのことは、何度も考えてきた。だが、だからなんだというのだ。彼が彼の生まれ変わりだろうと、私がルルーシュもアランも愛していることに変わりはないのだから。
 だから私は、アランに促した。

「ほら、アラン。蝋燭だよ。一緒にバースディケーキを食べよう。」


 目が見えなくとも、彼は人一倍家事をこなしていた。押し付けたのではない。彼が自発的にやりだしたのだ。最初は試行錯誤をしながら惨状を広げることも多かったのだが、今では彼に似たアイツと同じぐらい手馴れたものである。だから、今日もいつもと同じように、彼がパーティの用意をする。
 そんな彼を横目に見送る男の後頭部を見つめてやる。前は若白髪など全くなかったのに今ではその栗毛は半分が白く、ふわふわとした髪は仮面に潰されてしまったのか薄くへしゃげてしまっていた。と、その視線が気に障ったのか、彼は腕を組んだままこちらを振り返る。

「何。」
「いや?ただ、天下のゼロ様が、どうしてこんな辺鄙なところに来ていたのか疑問に思ってな。」
「ただ辺鄙な場所じゃないよ。・・・だって、ここには彼が眠っている。」

 その言葉に、ああ、墓参りか、とようやく思い至る。そういえば、ここは彼が眠るとされている場所だ。本当は、また別の場所に埋めなおしたけれど。
「・・・今度アイツに会わせてやる。」
 その言葉をどう受け取ったのか。生きているの?と瞳を輝かせる男は、鼻で笑って黙らせた。
「何を言っているんだ。お前が殺したんだろう?忘れたとは言わせない。アイツの肉を刺した感触、仮面を撫でた手、もたれ掛かってくるぬくもり・・・・埋めるために抱えた腕の中で、確かに冷たく、硬くなっていったあの絶望を・・・」
 その言葉に彼は弾かれたように顔をあげ、視線を泳がせ・・・そして、小さくぼやく。

 忘れるわけない。忘れられるわけ・・・

 言い切ることもできないまま、揺れる翡翠を隠してしまったけれど。
 だからこそ、私は本心を吐露する。
「正直、羨ましいよ。お前は、アイツの最期を見届けられたのだから。」
 アイツは18年前の今日、私が共にいることを拒んだ。だからあの日のことは、伝え聞くしか知る術がない。それがアイツなりの優しさなのは分かっている。だが・・・
「本当に、アイツは、優しいのか、残酷なのか・・・」
 でもそれが、ルルーシュだ。ルルーシュ、だった。そう遠くを見ながら返してくれる、かつての共犯者の共犯者に、私も歪んだ微笑みを向ける。

「そうだな。誰よりも優しい、嘘つきだった。」


 どうやら、ケーキの準備が整ったようだ。彼は黙り込んだまま違うところを見ている私達に首を傾げていたが、そっと卓上にケーキを置くと、自分の席にゆっくりと座った。しかし、火をつけるためのオイルが切れていたらしい。慌ててマッチを取りに行こうとした彼を押し留め己のライターを蝋燭に近づける男は、ケーキなど久しぶりに見たからだろうか。羨望の眼差しをしながら、口元を緩めていた。


 テーブルの上で、蝋燭の火が揺れている。今にも消えそうなそれは、まるで命のともし火のよう。

「おめでとう、アラン。」

 そう、彼には決していえなかった言葉を、彼に紡ぐ男。

「ありがとう。」

 ふわりと素直に微笑む彼は、彼とはまた違う、けれども愛おしい我が子。

「でも、今日は確かに人が死んだ日ですから。こっちを歌いましょう。」

 そう言って彼が紡ぐのは、小さな、たどたどしいレクイエム。それに続いたのは、私が先か、男が先か。


 小さなハーモニーを残しながら口を閉じ視線を上げると、目の前で揺れている、今にも消えてしまいそうな灯火たち。

 その一つ一つに、彼は唇を寄せ、丁寧に、丁寧に消していく。



 一つ目は、クロヴィス。

 二つ目は、ユーフェミア。

 三つ目は、シャーリー。

 四つ目は、ロロ。

 五つ目は、母親か、父親か。


 六つ目はきっと、ギアスを掛け従わせてしまった、兵士達。

 七つ目はテロに巻き込んでしまった民間人の分。

 八つ目は、ついてきてくれたのに守りきれなかった、同志達。


 命の灯火は、儚くも、確実に、消えていく。


 そして彼は、親友の存在を消した。
 最後に残っているのは、孤独に揺れる、脆くも強く、美しい、熾烈な灯火。

 じっと見つめる私達の前で、アランはそっと口を寄せる。



 ありがとう。明日をくれて、ありがとう。



 そう、音もなく伝えて。彼は、彼自身を消したのだった。






彼から、彼へ
―二人のための、大切な日―












 毎年この時期になると、二人っきりの我が家に訪問者がやってくる。
 今まではあの日の亡霊――もうその表現はよろしくないかもしれない――のみだったが、昨年からはアイツの騎士も来るようになった。
 いったい、どこから嗅ぎつけて来るのだか・・・。そう苦笑しながら、今年新しく増えた桃色を見やる。
 そのとき、家の奥から松葉杖の音が聞こえてきた。それに視線を向けたのは、白髪頭の翡翠が最初。
 それでも、この言葉だけは、私が最初に言ってやったと思いたい。



「誕生日おめでとう、アラン。」



 そして、奇跡をありがとう。私の愛しの共犯者。



 今日も彼の眠る場所に、素朴なレクイエムが響く。








―――お疲れ様、ルルーシュ。ありがとう、ルルーシュ。おやすみなさい、ルルーシュ。

 と、いうわけでルルーシュ追悼です。ごめんなさい、オリキャラ(?)が出張りました。
 最初に考えていた展開と大分変わったのは、きっと二人の愛故なんだろうなあ。
 ちなみにこの話では、ゼロはちゃんと正義の味方ですしナナリーは代表を続けているし扇も落選したものの、夫婦で仲良く教師生活をしています。シュナイゼルも健在。雰囲気は暗くとも、なんだかんだで私の書く小説の中では一番ルルーシュが望んだ、優しい世界に近いかもしれません。

 書いていて思ったのですが、私は「火傷」と聞くとゲド戦記の四巻を連想してしまうようですね。
 何か、文体が!ゲド戦記!というか、C.C.がテナー化してるよ!!どういうこと!!
 彼は喉まではやられていないはずなのに、『天地創造』の始まりの部分を歌えないけれど語ろうとするテルーの如くたどたどしく、決して歌とはいえないような、それでも聞く人の心を打つレクイエムを歌っている図しか思い浮かびませんでした。

 世間のギアスファンは今日、最終回を見返しては涙を堪えているんだろうな、と思うといろいろやるせない気持ちが襲ってきますが、いいんです。多分見たら暫く復活できないので。

 この小説は一応今日から一週間フリーにしておきます。お持ち帰りしてくれるような優しい方はいらっしゃるかどうか分かりませんが、よろしければどうぞ。

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