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23 November

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25 October

キセキの贈り物

 ロロ!ナナリー!お誕生日おめでとう!!
 というわけで最終回後のロロナナ誕です。



・コードギアス小説。
・反逆のルルーシュR2最終回後。
・ロロ&ナナリー誕生日記念。
・ロロもルルーシュも不在。
・暗い。

 以上よろしければ、追記よりどうぞ。







 煌々と輝くシャンデリアが、夜闇に異世界を映し出している。整然と並べられた皿に盛られた大量の料理。毛並みが揃った重厚なカーペットを踏み荒らし、優雅に舞う人々。彼らは皆、華やかなドレスを纏っている。いつぞやの煌びやかでどろどろとした宮廷の社交界。しかし、これは映像記録ではない。
 仮面を免罪符に苦虫を噛み潰したような顔で睨みつけていれば、パン、と軽い音と共に再び闇が訪れた。再び差し込んだ一筋の光の中には、車椅子の少女が一人。ウェーブがかったブロンドの髪を揺らしマイクの前で微笑むさまは、まさに天使そのものだった。
「皆さん、本日は私の誕生会にお集まりいただき、ありがとうございます。」
 とっても嬉しいです、と無邪気な子どものように声を弾ませる彼女の目は暗い。この座に就いてたった一月だというのに、仮面を被るのがとても上手くなったようだ。
 彼が望んだのは、彼女がただただ笑って暮らせる世界だというのに。ああ、世界はこうも変わらない。

 私達に世界を委ねられて、早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。生まれ変わったブリタニアの初代代表たるナナリー・ヴィ・ブリタニアは、本日で16歳になる。
 箱庭の少女は守り手が消えると同時に徐々に大人になっていた。けれども僕は知っている。彼女が毎日のように枕を濡らしていることを。うわ言のように兄を呼ぶ声を。心の叫びを。

 ゼロ、と私の名を呼ぶ声に慌てて意識を浮上させる。覚悟は決めたつもりなのに、僕はまだ私になれない。その事実が酷く腹立たしかったが、仮面越しの声は全てを抑えこんでくれる。憎い音だが、今はそれがとても有難かった。


 僕は一度、彼に計画の延期を示唆したことがある。年齢的にはまだ中学生であるナナリーの誕生日に、兄がいないのだ。そして前年は全ての愛を偽りの弟に奪われた。だからこそ、今年の誕生日は彼女にとって一生の傷になるだろう、と。
 その言葉に彼はまず訂正を求めた。あいつは確かに俺の弟だったと。それを僕が認めたのを確認すると、彼は一言、俺は祝えないから、と寂しそうに笑った。

 僕らのしたことは決して赦されるべきではない。けれども、時に思ってしまうのだ。僕らは、僕達が本当に笑顔にしたかった人達に涙を流させて、何をしているのだろう、と。


 機械的に動かしていた口を一度閉じてから、もう一度、心を込めて祝辞を述べる。よかった、ようやくナナリーが笑ってくれた。つられて微笑み返すが、それを伝えるには仮面が邪魔だった。脱ぎ捨てたくなる衝動を努めて無にし、私は礼もせずに用意された席へと腰を下ろす。ゼロ様、と声をかけるかつての敵に、私は群がる蟻の相手を任せた。

 どれだけの時間が過ぎたのだろうか。気づけばナナリー代表が横に寄り添い、私の手を握っていた。
 起こしてしまいましたか、と不安げな瞳を向けるパーティーの主役に「客の相手はしなくてもよいのですか」と問えば、一通りご挨拶しましたから、とため息混じりに言う。どうやら相当お疲れのようだ。無理もない。彼女はこの数日、まともに眠れていない。
 会場を見回してみると、宴も酣といったところだった。私はシュナイゼルに一声かけると、ナナリー代表を連れて扉の外へと向かう。
「お誕生日おめでとう、ナナリー」
 後ろ姿に向かって礼をするシュナイゼルの瞳は、濁りない青紫だった。



 離宮に戻ると、そこには大量の贈り物が運び込まれていた。何の気なしに手を伸ばすナナリー代表を押しとどめ、手袋を直してから一つ一つ検分していく。彼女はつい先月まで世界中を支配していた悪逆皇帝の妹であり、秘匿にしたとはいえ首都ペンドラゴンを消滅させた罪がある。彼女を恨み、殺そうとする者がいるのは当然ともいえよう。しかし予想は裏切られ、刃物も爆弾もないようだ。ただただ受け入れられているのか、そうまでして殺す価値もないと判断されているのか。パーティーを見ている限り後者だろうが、どちらにしても今は安全だと考えていいだろう。彼女に一つ一つ宛名を読んで渡したところ、彼女は「もう読めますから」と花が開くように笑った。


 そういえば忙しさにかまけてプレゼントを用意していなかったな、と思い至るが、世界の英雄が一国の代表にかまけては癒着を疑われると考え直す。相変わらず、私の中には僕と私が混在しているようだ。

 まったく、だからお前は考えなしなんだ。いいか?ゼロになるからには――
 彼は仕事の合間を縫って、僕が私であるために様々なことを教えてくれた。いつまでも「枢木スザク」から抜け出せない僕に呆れたような口ぶりで、慈しむような笑顔で英雄に必要なことを語ってくれた。
 だけども僕は、彼のようにはなれない。いや、彼だって演じ切れなかったゼロを、僕が演じられるのだろうか。そんな懸念も、あの日が近づくにつれもっと大きな不安で押しつぶされていった。
 ああ、本当に変わらない。世界も、ナナリーも、僕も。それなのに、君だけがいないんだ。


 ふと温かいものが手袋越しに触れた。見れば、ナナリー代表がじっとこちらの仮面を見つめている。
「ゼロ。一つだけ、私の我が侭を聞いていただけませんか?」
 一瞬考えてから、問題がない範囲でしたら、と答えると、彼女は一瞬だけ唇を噛んだ。だから気がついた。ナナリーの願い、それは・・・
「今日一日だけでいいんです。スザクさんとして、一緒に――」
「できません。」
 即座に答えた。僕としては、今すぐにでも彼女を抱きしめて、一緒にお祝いをしたい。きっと最高のプレゼントになるだろう。でも駄目なんだ。僕はもう死んだんだ。僕は、私はゼロなのだ。世界の英雄として、悪を打ち砕く正義の象徴として世界に捧げた身だ。今更僕に戻ることはできない。
 そんな私の考えを感じ取ってくれたのか、彼女はゆっくりと手を下ろしてくれた。
 奇跡を起こしてはくれないのですね、という小さな呟きが、酷く心に突き刺さった。


 大量の贈り物は、ほとんどが寄付に使われることになった。
「大切な方々から祝っていただければ、それでいいんです。」
 彼女は異母姉から届いたプレゼントをやさしく撫でて笑う。けれども本当に祝って欲しい人は、既にこの世にはいない。この孤独な少女から、私が奪ったのだ。

 これ以上見ていられなくなり、部屋を見渡す。プレゼントは大方仕分けできたようだ。凝り固まった体を大きく伸ばそうとして、英雄らしくないと肩を回すだけにとどめた。
 改めてもう一度見回してみると、暖炉の上に見たことがない包みが乗っている。ここに置いた覚えはないのだが。いぶかしみながらも手を伸ばした時、気がついた。規則的に凹凸を描くメッセージカード。この筆跡、見覚えがある。文字を追うと、「最愛の人へ」とだけ書いてあった。
 固まる僕を不審に思ったのか、ナナリーが傍までやってくる。彼女に無言で差し出せば、彼女は「まさか」とメッセージカードに触れた。目を閉じてゆっくりと指でなぞる様は、数ヶ月前までの彼女を連想させる。最後まで到達した途端彼女は目を開き、包みを解きだした。再び顔を覗かせた瞳は、爛々と輝きを取り戻している。僕達は息を呑んで、目の前の包みと格闘した。


 中身は、携帯のストラップと手紙、そして一羽の折り鶴だった。
 震える指先で愛しむように折り鶴に触れると、彼女は堰を切ったように涙をこぼす。

 ああ、これは彼が最後にくれた奇跡なのか・・・?

 歯を食いしばって再び包みに視線を送ってから、どこかで見覚えのあるストラップだ、と僕の記憶を辿る。そうだ、ロロとおそろいなんだ。色だけ違うそれは、まるで性別以外はそっくりな、彼の大切な妹と弟を表しているかのようだった。
 では、この手紙も?僕は恐る恐る手に取った。うっかり落としてしまった便箋からは、たった一枚の紙が飛び出している。二つ折りにされたそれを苦戦しながらも開くと、真っ白な紙からあたたかくてよく見知った字が飛び出してきた。



 最愛のナナリーへ


 お前のことだから、俺の最後の計画はすでにバレているだろう。

 代表就任おめでとう。お前にはお前にしかできない償いを見つけたんだな。兄として誇りに思っているよ。
 ゼロとも上手くいっているようでよかった。あいつは全部自分で抱え込むから、時には抱きしめてあいつを人に戻してやってくれ。

 実は今日は、お前の知らない弟の誕生日でもあるんだ。だからこっちもパーティーの準備で忙しいよ。本当はお前も招待できたらよかったんだが、公僕はそうも言えないものな。いつか一緒にお祝いしよう。

 それから、ゼロに伝えて欲しいことがある。お前が今着手しているフレイヤの平和利用に関する条約だが――


 そこから先は思慮が浅いとか、こういうところを直せとか、ポーズが甘いとか体力馬鹿とか僕の悪口ばかりだったけれど、読めば読むほど顔がくしゃくしゃになる。あれ、目の前もかすんできた。嫌だな、まだ最後まで読みきっていないのに。


 ――ついいろいろ書いてしまったが、あいつもお前もよく頑張っていると思う。俺がいなくても、お前たちはもう大丈夫だよ。これからも体に気をつけて、優しい世界を作り上げてくれ。夜は寝て、食事もちゃんと取るんだぞ。それから、恋人ができたら絶対あいつに相談してくれ。ナナリーは可愛いから変な虫がつかないか心配なんだ。

 連絡を取るのはこれが最後だ。だけど、俺はいつでもお前たちを見守っているよ。

 お誕生日おめでとう、ナナリー。愛している。


 誰よりも君の幸せを願う兄より



 スザクさん、とすがる声に意識を戻し声の主を見る。消印はいつになっていますか、と問われて慌てて確認してみれば、なんと今日だった。
 ああ、これは現実なのだろうか。本当に、彼は生きているのだろうか。覚悟は決めたつもりなのに、僕は唇の端が上がるのを抑え切れない。お互いの名を呼んで、僕らはただただ抱きしめあった。変わらない世界に一筋の光が差し込んだかのような心地だった。



 でもね、僕は見てしまったんだ。長い長い、それは綺麗な緑の髪が消えていくのを。
 やっぱり君は、いつまでたっても嘘つきなんだね。ルルーシュ。




   キセキの贈り物
 ー最高最悪のプレゼントー




(全部君の予想通りだよ!)




<<2014/10/25 07:44
  Happy Birthday ロロ!ナナリー!
  というわけでロロナナ誕です。ユフィ誕に引き続き暗くて申し訳ない。
  まだゼロになり切れていないスザクは想像すると面白いのですが、書くとなるとなかなか難しいですね。

  ちなみにロロはCの世界でルルーシュやクロヴィス、ユフィ等の皇族組にシャーリー、バドレーにクララ、トト達ギアス嚮団組に祝ってもらったようです。
  クララもふざけて「ルルーシュお兄ちゃん、クララもお祝いして♪」とか言ってロロと喧嘩していればいいと思うよ!

 蛇足ですが、一応アーニャ誕に続きます。



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